PBeM
〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

貿易都市カルファール
大森林フィアヌスの東にある都市国家。
サノット共和国からキムナード地方へ“鉄”や食料などを仲介する。
最近では八群姉妹都市との交易も盛ん。人口の三割ほどがエルフであり、
バーナード地方やロトッカ地方の人々にとっては異国情緒豊かな都市である。

:貿易都市 竜追いギルド:
 未踏破地域を探索するために訪れる冒険者でにぎわう、カルファールの竜追いギルド。
 多くの冒険者は、キムナード砦へと旅立つが、中には、このギルドをそのまま拠点として活動を行っていこうとするものもいる。
 騎士王国のある竜追いギルドと同じく、酒場を兼用している。
 ここのマスターは、ワーカインという、中年の人間の女性で、夫と共にギルドを運営している。エルフであるという彼女の夫は、頻繁に旅に出ているらしく、なかなかその姿は見られない。

投稿(件名…貿易都市 竜追いギルド)
ギルド張り紙
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GM

 イザクたちは、クロウ族の遊牧地へ向けて出立した。

 シナリオ19に移動します。


ワーカイン

イザク<

「神様からだってんなら、こんな酒場らしい贈り物よりも、もっと分かりやすいものの方がいいねえ。意外だかどうだか知らないけどね、あたしは、即物的なんだよ」
 やれやれ、と、わざとらしい顔でため息をつく。
「はいよ、気を付けて行ってきな。
 あんたたちは、いかにも酒に強そうだしねえ。今から、ちょっと手を加えて置こうかね、蒸留させたりとか?」
 冗談と笑顔で送り出し、手を振った。


イザク

ワーカイン<

「わかった。その賭け、受けて立つとしよう」
 さしたる迷いも見せず、女主人の提案を笑顔で快諾する。
「マスターには、色々と骨を折らせてしまったからな・・・
 もし賭けに負けた時は、どの様な頼み事でも、
 喜んで引き受けさせて貰うおう。 ただし――」
 女主人に向けた笑みが不敵なものに変わる。
「竜人族の戦士は皆、生粋の酒豪揃いでな、賭けの結果がマスターの望むとおりになるとは限らないぞ」

 その酒が何時この店に来たのか、はっきり憶えていないと語る女主人の顔を、不思議そうに見つめる。
「それはまた、面妖な話だな」
 表情からして、冗談を言っている様にも見えない。
「案外・・・仕事熱心な店主に、酒の神が下した贈り物なのかもしれないぞ、この酒は。
 何にせよ、益々味わってみたくなったな」
 件の酒に向かって興味深げな視線を投げる。

ウィナー<

「ああ、問題ない」
 ウィナーの言葉に頷くと、自らも背負い袋を担ぎあげる。
 女主人の方に身体を向ける。
「色々と世話になった。
 貴女の好意に報いる為にも、依頼の解決に力を尽くそう」
 竜人族特有の仕草――イザクは、半分だけ握った形で、両手を胸の前にあげると、そこで軽く拳を打ち合わせた――で、女主人に対して感謝の意を表す。

「さあ、出発しよう」
 ウィナーに出発を促すと、自らも出口に向かって歩き出す。


ウィナー

イザク<

「頼りにしてもらっても良いよ。ぼくはね、明朗快活で人好きがして、身軽で頭脳明晰で、魔術に才能を、研究に閃きを、あとはなんだ、ああ、そう、それとあと、耳が良いことくらいにしか取り柄のない平凡な人間だけど、それらについてはちょっとした自信があるんだからね」
 ひょいと肩をすくめると、二階へ上がっていく。
 ややあって、中程度の背負い袋を下げて戻ってきた。
「じゃ、いいかな?」


ワーカイン

イザク<

「おやおや、これは太っ腹な兄さんだねえ。
 冒険者にあるまじきことだよ、おごりの酒を断るなんてさ」
 楽しそうに、けらけらと笑う。
「ま、いいさ。依頼を受けられて、首尾良く帰ってこられたらね。いくらでも飲むといいよ。その代わり、全部、飲みきれないときは、あれだよ。あたしの頼み事を引き受けておくれ。ちょっとした賭けってやつさ」
 それから、真顔に戻る。
「そういえば、あたしにも分からないんだよ。
 この酒は、一体、どこで仕入れたんだったかねえ。ふっと、気がついたら店にあったのさ。飲んだくれの客が置いて行きでもしたのかと思ったけど、それもなさそうだしね。蟻が砂糖を、泥棒が財布を忘れていくことと同じくらいありえないよ。
 ま、たぶん、あたしがどっかで見付けて、気まぐれで買ったんだろうさ。覚えてないだけでね。そうでもなけりゃ、他にも思いつかないしねえ。もらった覚えもないんだからね。
 まあ、毒じゃないことだけは保障するよ。
 味だっていいんだ――ちょっと、刺激的なだけでね」


イザク

ワーカイン<

「そんな酒、一体何処から仕入れて来たんだ?」
 女主人の持つ酒瓶をしげしげと眺める。
「豪胆な冒険者達もが敬遠する酒か・・・どんな味がするのか味わってみたい気もするが――」
 そこで、ウィナーの方をちらりと見る。
「やはり、今はやめておこう。
 その代わり、首尾よく依頼をやり遂げて、この店に戻ってくる事が出来た時は、この酒、試させて貰う事にしよう。」
 それから、ふっと苦笑して付け加える。
「代金は払うつもりでいるから安心してくれ、奢らせてばかりでは悪いからな」
 
ウィナー<

「それなりの実績、か。
 そうそう気楽な所でも無い様だな、学問の世界というのも」
 首を左右させて唸る。
 若き学者の浮かべた自嘲気味の笑みに、先程の朗らかな笑顔には無かった、僅かな、わだかまりの様なものを感じたが、それを口に出す事はせず、ありきたりの感想を語るだけに留めた。

「軽薄なのは困るが、身軽であるというのは優れた美点だろう。
 少なくとも、これから行動を共にする者としては、ありがたい事だ」
 すぐにでも出発できるとの返答に、笑みを浮かべて頷く。
「此方の準備は出来ている。
 あなたが荷物を持って戻りしだい、出発するとしよう」
 そう言って、傍に立て掛けてあった二股の槍を手元に引き寄せる。


ウィナー

ワーカイン<

 眉を寄せて、不満そうに見やるが、ため息をついて降参した。

イザク<

「まあ、本業は学者――の、つもりではあるけどね。実際のところ、何かしらの実績を上げなきゃ、学者連中の間じゃあ認めてはもらえないのさ」
 肩をすくめて、自嘲気味に笑う。
 それから、出発したいというイザクの台詞を聞いて、
「すぐに、かい?」
 ぽかんとした顔をする。
 うーん、とうなり声を上げる。
「……まあ、いいか。いや、別に朝食が食べたいわけじゃないし。ちょっとはゆっくりできるつもりでいただけだからね」
 頷く。
「いいよ、僕は構わない。部屋から荷物を持ってくれば、それですぐにも動けるからね。学者というと鈍重そうな印象を与えるかも知れないけれどね。身軽な奴は、身軽なのさ。軽薄ともいうかな」


ワーカイン

イザク<

「ま、構わないよ。あたしが奢っとくさ」
 鷹揚に頷く。
「正直に白状しちまうとね、仕入れてみたは良いんだけど、誰も手を付けてくれない酒なのさ。アルコールが強いっていうだけなら、好きな奴が飲むんだろうけどね。ちょっと、刺激が強すぎるのさ。
 ――あんたも試してみるかい?」
 にやりとして、酒瓶をちらつかせてみせる。

ウィナー<

「体調管理は冒険者の基本だよ。気付け薬をもらえた分だけ、感謝してもらいたいもんさ。あんただって、折角の手助けをみすみす見逃したくはないだろ」


イザク

ワーカイン<

「酒で目覚ましとは」
 一旦言葉を切ると、女主人に向かって意見する男の方を見やる。
「中々の荒療治だが、効果の方は覿面らしいな」
 男の表情も口調も、飲み物を口に入れる前より大分しゃっきりとしたものに変わっている。
「おかげで助かった、代金は幾らになる?」
 うーむ、と感心した様にうなり声を上げた後、ワーカインの顔を見上げる。

ウィナー<

「徹夜で調べ物とは、随分熱心だな」
 寝不足の理由を聞くと、少し驚き、それから納得した様な顔をする。
 なるほど、一睡もせずに書物と格闘していたのであれば、あの様な有様になるのも頷ける。
「学者で魔術師とは心強いな、こちらこそよろしく頼む、ウィナー」
 泣き笑いの様な魔法使いの表情に、釣られる様にして小さく笑みを返した。

 ウィナーが同行を承諾すると、満足げに頷く。
「さて・・・寝不足気味の所すまないんだが――」
 言いながら、太陽の高さを確かめる様に窓の外へと目を向ける。
「日の沈まないうちに距離を稼いでおきたい。
 出来れば、すぐにでも出発したいんだが・・・構わないだろうか」
 ウィナーの方に視線を戻して尋ねる。


眠そうな男性

イザク<

「どうも……」
 挨拶に対して、頷きで答える。
 そして、半ば閉じられたような目で、羊皮紙を見下す。
「……ふん、……ふん……」
 イザクが言葉を切るごとに、うなり声で相づちを打つ。

ワーカイン<

「……どうも……」
 持ってこられたカップを手にとって、のんびりと礼を言って、ごくりごくりと飲み干す。やおら、咳き込みだした。
 がたんと椅子を蹴って立ち上がり、身体を折ってひとしきり咳をする。
 心得顔で待機していたワーカインの手から水をひったくるように受け取ると、今度はそれを喉に流し込む。
 荒い息を吐いて、頭を振った。
「参ったね、こんなに強い酒は飲んだことがないよ。ひどいな、マスター」

イザク<

「あ〜。失礼。話の途中だったね。
 どうも、申し訳ない。昨夜はこの依頼に関することであれこれと調べものをしていたものだからね。ぼくは、寝不足だけにはどうしても耐えられなくてね。
 ぼくはウィナー。学者で、一応は魔術師さ。よろしく、イザク」
 涙の滲んだ目を擦ると、明るく笑顔を浮かべた。
「さて、依頼についてだけれど――」
 言葉を句切り、「うん」といって頷く。
「もちろん、行くよ。マスターに拒否されなけりゃ、自分だけでも行っていたところだしね。渡りに舟、さ。イザク。
 竜を神聖視し、竜と共に生きる民の元へ、竜人の君が助けに行くってのは、何とも興味深い符号じゃないかい?
 君がそのつもりになったら、たぶん、かれらも任せてくれると思うな」


ワーカイン

イザク<

 やれやれ、といった表情で男性を見やり、イザクの方を見て、頷いた。
 奥から、赤黒い飲み物の入ったカップを持ってきて、男性の前に置く。


イザク

眠そうな男性<

 いささか礼儀を欠いた男の振る舞いに、一瞬、目付きが険しくなるが、すぐに落ち着いた表情を取り戻し、男の問いかけに頷きを返した。
「イザク・グリエリムスだ。
 イザクと呼び捨てて貰って構わない」
 椅子から立ち上がり、短く名乗ってから一礼する。それから真向いの椅子を手で示し、座ってくれと男に勧める。

 眠そうな男性は、勧めに従って席に着く。

「さて」
 男が席に着くと自らも椅子に座って再び話始めた。巨漢の竜人にとっては少々窮屈な椅子が、ギシと悲鳴をあげる。
「大体の話は聞いているかもしれないが――」
 一旦言葉を切る。机の上に開かれた羊皮紙の地図を男の見やすい位置に移動させて、女主人から教えられた地点に指を置いた。
「この辺りにある遊牧地に、この仕事、飛竜・・・退治の依頼人が滞在しているらしい。この街からだと徒歩で2日程掛かるようだな。
 依頼人に会えば色々と詳しい話が聞けるだろう、飛竜の事も含めてな。報酬についての交渉もできるかもしれない」
 男の反応を確認しながら、一言一言ゆっくりとした調子で話す。
「本当にこの仕事を受けるかどうかは、依頼人に会ってから決めるつもりだ。
 尤もこちらがいくら受けたいと思っても、依頼人が我々には無理だと判断すれば、それまでだが・・・」
 顔を上げると、男の瞳をじっと覗き込んで続ける。
「無駄足になるかもしれないが、どうする?」

ワーカイン<
 
 話の合間に女主人を呼び、
「頭をスッキリさせる様な飲み物があれば、彼の為に作ってやってくれないか」
 声を落として囁く。目の前の男をチラリと一瞥すると
「すまないが、なるべく早く頼む。」
 と付け加えた。



眠そうな男性

ワーカイン<

「ああ……」

 欠伸だか呼び掛けだか分からないようなうめき声を上げて、手をあげてみせる。

「えーと……」

 虚ろに、周囲を見回す。
 やがて、一人の人物に目をとめる。

イザク<

「ああ……君……かな? 飛竜の……退治に行くっていうのは?」
 髪の毛をくしゃくしゃとかき回しながら、礼儀もなく話しかける。


GM

 程なくして軽い物音が聞こえ、例の部屋の扉が開いて、中の泊まり客が出てきたのが分かる。
 その人間の男はのろくさとした動作で階段を下りてきて、眠そうな顔であたりを見回している。
 麻の服に、荒折りの茶色いスモックを羽織っている。平凡とした服装の中で、片手に握った短杖が不釣り合いだった。複雑に形作られた胴体に、先には黒い小さな宝石があしらってある。
 その眠そうな顔を見て、ワーカインに人間の年齢が外見で分かるなら、彼はおおよそ三十手前くらいの年齢だろうと判断しただろう。


ワーカイン

イザク<

「四日分、まるまるかい。なんだい、あんた、もしかしてちょっとの食い物も持ってなかったのかい?」
 目を丸くして、それからけらけらと笑い出す。
「鳥の足肉だけのつもりだったんだけどねぇ。まあいいさ。丸の奴を持たせてやるよ。その代わり、パンは安物にしとくよ。黒パンに比べりゃ、石みたいに硬いんだ。ミルクか、シチューに浸しでもしなけりゃ、食べられやしない。ま、あんたの牙だったら簡単に噛みきれるかね」
 待ってな、と言い残し、再び厨房に引っ込む。
 次に出てきたときには、油紙にくるんだ大きな固まりを持っている。恐らくは鳥肉と、パンが包まれているのだろう。
「ほら、持ってきな――代金は、ちょうだいしとくよ」


イザク

ワーカイン<

「む。」
 食べ物の持ち合わせは十分か、とのワーカインの言葉に、この街に到着するまでの間に、手持ちの食料のほとんどを食べきってしまっていた事を思い出す。
「そう言われれば、四日分どころか、一食分あるかどうかも怪しいな。」
 苦笑しながら背負い袋を降ろすと、中から鮮やかな刺繍の入った金袋をとり出す。
「一日分で銅貨3枚か、では――四日分貰うとしよう。」
 イザクの懐具合を慮っての事だろうか。
 良心的とも思える値段を提示した女主人に、安心した様な笑みを見せると、金袋からつかみ出した代金をカウンターの上に置く。

 階段を上っていく女主人を見送ると、手近な椅子に腰掛けて、広げて置かれたままの地図を再び眺めだす。
 程なくして、二階からきれぎれに聞こえていた遣り取りが止み、階段を下りる足音が聞こえてくる。
 椅子から立ち上がり、二人が現れるのを待った・・・だが、階段から下りてきたのは呆れ顔の女主人一人だけ。
 聞けば件の魔法使いは、今の今まで眠っていたらしい。
「急に呼び出したのはこちらの方だ、待たせてもらおう。」
 ”身支度をするから待って欲しい”、魔法使いからの伝言に頷いて答える。
「それにしても、こんな時分に寝ているとはな・・・。」
 ものぐさ故か、はたまた余程の暢気者なのだろうか、一抹の不安を感じながら呟きを洩らす。


ワーカイン

イザク<

「食べ物の持ち合わせはあるかい? 往復四日分ってとこかね。
 心許ないんなら……昨日の残りでよけりゃ、炙った鳥の肉があるから――銅貨3枚で売ってやるよ。その鳥は、この辺じゃよく見られる家畜でね。バンチャってんだけど、味は大したもんじゃないが、生命力が旺盛で、図体も大きくて食いでがあるのさ。
 買うんなら、黒パンも一個、おまけにつけてやるよ。これだけで一日分は充分、食べられるんじゃないかねえ」

 イザクの言葉に頷く。
「じゃあ、ちょいと待ってな。今、呼んでくるからね」
 言うと、すぐに二階へ上がっていく。
 何か、会話をする声が聞こえる。程なく、ワーカインはあきれ顔で下へ降りてきた。
「寝てたみたいだね。こんな昼間っからさ。
 身支度して降りてくるそうだよ。待っていてくれってさ」


イザク

ワーカイン<

「馬なら一日で行ける距離か・・・ならば、そう遠くはなさそうだ。」
 広げられた地図に落としていた視線を、女主人の方に戻した。
「だが生憎と、馬を購える程の持ち合わせはない。
 野営に備えて、荷物の確認をしておいた方が良さそうだな。」
 僅かに表情を引き締め、背中にある背負い袋をひとつ揺する。

「そうだな・・・」
 あたしが呼んで来てもかまわないというワーカインの言葉に、腕組みをして小さく呟く。
 数秒の思案の後、腕組みを解いて軽く頷いてみせる。
「手間をとらせてすまないが、此処に呼んできて貰おう。
 見ず知らずの者が、突然部屋を訪ねるというのも、考えてみれば不躾な話かもしれない。それに・・・」
 そこで、一旦言葉を切ると、客で賑わう店内を見回す。
「はじめて会う者同士が話しをするには、こういった場所の方が都合が良いだろうしな。」


ワーカイン

イザク<

「そうだね、近いといやあ近いかねぇ。
 ちょいと待ってな。今、地図を持ってくるからね」
 いうと、奥へ入り、ややあって、薄汚れた羊皮紙を持って戻ってくる。
 丁寧に描かれた図形を示しながら、場所を説明する。
 町を出て、特徴のある地形を目印にして、遊牧地へ辿り着くための手順を教えた。
「そうしたら、この小川を辿って……剣みたいな形をした山が見えたら、この岩の間を進むんだ。あんたが間違っていなけりゃ、そこに広い草地があるはずさ。
 そこが、クロウ族が北上してきたときに遊牧地に使う場所さ。あと、都の連中と取引するときに、野営地にしたりするんだね。ここに、依頼人が天幕を張っているはずだよ。
 馬だったら、日が昇った頃に出発して、日が暮れる前くらいに到着するかねえ。
 徒歩だったら、二日かかるかね。このあたりは、夜中の旅は危険すぎるから、暗くなる前に途中で野営した方がいいだろうしね」

 それから、魔法使いの部屋について答える。
「階段を上がって、すぐ右手の部屋さ。
 なんなら、あたしが呼んで来ても構わないよ。
 別段、あんたが行って問題があるって思うわけじゃないけどね」


イザク

 依頼人がこの近くに滞在しているのならば、都合が良い。
 女主人の助言に頷きを返す。

ワーカイン<


「そうだな、これ以上の話は依頼人から直接訊くとしよう。
 此処からは近いのかい?」
 遊牧地の詳しい場所を尋ねる。

「それと、先程話しに出た魔法使いなんだが…」
 視線を2階へと続く階段に向けると、言葉を続ける。
「どの部屋に泊まっているか、教えてくれ。
 共に遊牧地へ行って、依頼人の話を聞いてみるつもりはないか誘ってみようと思う。」


ワーカイン

イザク<

「そうだろ。試作品だけどね。評判がよけりゃ、メニューにも並べるつもりさ」
 にっと笑う。
「あんたの推測だけど、たぶん、正しいと思うよ。
 まあ、詳しいことを聞いたわけでもないけどね。あの話しぶりだったら、たぶん、悪夢に捕らわれたってのは幼竜のことだろうね」
 それから、首を傾げる。
「他に興味を示している者ねぇ……。どうだっけね、何人かいないこともなかったけど、たいていは、興味を示しただけで受けるつもりはなさそうだったね。
 ほら、あんたにも分かるだろうけど、竜ってのは、あたしらにとっては本当に特別なものだからね。手を出すのは憚られるみたいだよ。
 ああ、でも、そうだ。一人ばかりいたっけね。魔法使いだよ。
 悪夢に捕らわれたっていう竜を見てみたいっていってたんだけどね。あたしが止めた。だってねぇ、身を守ってくれる戦士もいない魔法使いを、竜退治に差し向けられるもんかい。一緒に行ってくれる仲間を見付けてからまたおいで、ってね。
 今は、二階で休んでるんじゃないかね」

 それから、こめかみのあたりを指で叩いて、訊ねる。
「もしも詳しい話が聞きたいってんなら、依頼人のところに行ってみるのもいいんじゃないかい?
 請負人が見つかるまで、遊牧地に留まるつもりらしいからね。少なくとも、その時間が来るまではね。
 それで、請けるか請けないかは、それから決めればいいさ」


イザク

ワーカイン<

「いただこう」
 女主人の好意に対し、小さく首肯して感謝の意を表す。
 受け取ったカップの中身を一口含むと、爽やかな酸味が口に広がった。
「故郷にはない酒だが、美味い」
 鼻腔から抜ける酒の香りを感じながら、女主人に向かって微笑む。

 女主人が二つの依頼についての説明を終えると、既に空になったカップをカウンターに置き、しばらくの間黙り込む。
「邪竜…いや、飛竜救済の依頼についてなんだが…」
 やはり、こちらの依頼がどうしても気になる。
 己には過ぎた仕事だとは思いつつも、何故だか諦めてしまう事ができない。
 (できる事なら、哀れな竜をこの手で救ってやりたい)
 そんな思いを振り切ってしまえないのは、イザクの中にも同じ竜族の血が流れているからだろうか。
 無謀とは分かりつつも、更に可能性を探る。

「悪夢に捕らえられたという、その竜だが、もしかして幼竜なのではないか?
 話を聞いていて、そんな印象を受けたんだが…どうだろうか」
 ”悪夢に捕らえられる”という現象が、専ら成長期の飛竜に起こる悲劇なのだとしたら或いは…成竜との戦いなら絶望的かもしれないが、いまだ成長途中の幼竜が相手ならば、少しは勝機が見えてくるかもしれない、淡い希望を含んだ質問。

「それと、この依頼に興味を示している者は、他に居ないだろうか?」
 この依頼に単独で挑むのは、自殺に等しい行為だろう。
 逆に、十分な実力を持った者と組めるならば、これ程心強い事はないのだが。


ワーカイン

イザク<

「はいよ」
 飲み物を準備しに厨房へ入る。
 程なく陶製のカップを持って戻って来て、イザクにそれを手渡す。
「まだ青いクジャの実と、蒸留酒のカクテルさ。この一杯は、サービスしとくよ」
 それから、イザクの質問を受けて、
「伝令の依頼と、邪竜退治だね。ちょいと待っておくれ。
 えーとね……」
 どこからか、羊皮紙の束を取り出して、その二つの依頼を探し始める。
「ああ、これだね。
 そうだねえ。まずは、“キムナード砦への伝令”からだね」

“キムナード砦への伝令”<

「あんたは、キムナード砦は知ってるかい?
 ここから西南西、大体、あんたくらいの体格だったら足も速そうだし、そうだね、十日ばかりだね。そのくらいの場所にある、砦さ。その砦は、「守護者達の町フラヌ」――これはあんたも知ってるだろう?――の成功に続けとばかりに、サノット共和国主導の四カ国で建設されたのさ。
 そいつはあっさり頓挫して、十年くらいまでは放棄されてたんだよ。放棄されたっていっても、結構な数の冒険者たちが協力して、魔族に奪われることだけは免れていたみたいだけどね。それを、最近になって、ちゃんと国でも運営をしようってことになったんだ。
 騎士王国、共和国、大魔術師王国、商人の国、境界都市で、だね。それで、今は、境界都市の野伏部隊が、砦の守護だった。
 さて、これからが本題さ。
 別に規則がある訳じゃないけど、キムナード砦の情勢は、あたしらにとっても他人事じゃ済ませられないからね。うちの自警団とキムナード砦の守護とは、大体、ひと月に一回くらいの割合で連絡を取っていたんだ。
 それがね、二ヶ月くらい前に、『周辺の魔物たちに不穏な動きあり。警戒を求める』って感じの連絡が来たんだ。それで、自警団の人も不安になってね、詳しい説明をほしがって、こっちからも伝令を送ったのさ。
 だけど、そいつが帰ってこない。
 それで、今度は、二十人ばかりの一団を派遣した。
 それも、戻ってこないんだ。
 さて、こいつは困った。
 キムナード砦は、魔族の軍勢に封じ込めを受けているのかも知れない。あらゆる連絡をさせないように、徹底的に包囲してね。人族同士の戦いだったら良くやることだしね。魔族がやらないとはいえない。悪くすれば、キムナード砦は魔物に落とされちまったのかも知れない。
 ああ、たんに、伝令が砦に辿り着けなかっただけかも知れないけどね。ソードノート地方の治安は、よろしくないからね。
 あんたたち冒険者に頼みたいのは、それさ。
 キムナード砦の状態を確認して、その情報を持ち帰ること。残念ながら、自警団の連中は、あんたらほど戦い慣れてもいないし、旅慣れてもいないからね。こういったことは冒険者の方が、うってつけなのさ。
 報酬は300Rdで、場合によってはボーナスも出るらしい」

「さて、次はこいつだね」

“邪竜の退治”<

「こいつはね、ソードノート地方で遊牧生活なんかをしてる遊牧民の部族の中で、一番、恐ろしい連中からの依頼だね。
 そいつは、クロウ族っていう氏族なんだ。飛竜と心を通わせることができるっていうんだけど、まあ、とにかく、竜と一緒に生活しているのさ。あたしらが犬や羊を飼うのと同じくらい、ああ、いや、それ以上に緊密な関係を持っているらしいね。
 さて、邪竜退治についてだね。
 あたしも依頼人から聞いただけの話だけどね。
 クロウ族が飼っているっていう飛竜は、何十年かに一度だけ、卵を産むらしい。そいつは、十年くらいかけて孵化して、更に二百年くらいでようやく、成竜になるんだそうだよ。
 だけど、順調に成長する竜は、そんなには多くないらしい。創造竜がいなくなっちまってからはなおさら、それ以前でも、結構な数の幼竜が死んじまってたんだそうだ。飛竜っていうのは、竜族の中でも、一番、大人になれる奴が少ないんだそうだね。病気にかかりやすいんだそうだ。そのくせ、生まれる数も少ないってんだから、難儀なことだよ。
 だけど、かれらがいうには、病気で死んじまうっていうのは、むしろ幸いなことなんだとさ。
 本当に稀なことだけど、竜が“悪夢に捕らえられる”ことがあるんだそうだ。その悪夢って奴はあたしにもよく分からないんだけど、とにかく、凶悪な魔物みたいになっちまうんだそうだ。
 悪夢に捕らえられた竜は凶暴化して、言葉をなくしちまうんだそうだ。“邪竜”になっちまうんだと。
 それで、最後には魂も喪失して、二度と転生しても来ない。そうなる前に、殺しちまわなきゃならないんだそうだ。
 けどね、やっぱり、難しいんだろうね。
 氏族の中では、邪竜を生んじまった一族が、責任を持ってやらなきゃいけないってことになってるんだそうだけど、自分が育ててきたものを自分で殺すっていうのは抵抗があるんだろうね。それが救うことになるって分かっていてもね。
 あんたらに頼みたいのは、それさ。
 “邪竜の退治”、いや、“飛竜の救済”かな。
 報酬は、現金っていうのは難しいらしいね。物々交換で生活している連中だからね。
 一応、冒険に役立つようなもので、報酬を考えているってさ。
 だけど、請負人がどうしても現金が良いっていうなら何とか工面するつもりらしいね」


イザク

ワーカイン<

「見てみよう、何か喉を潤せる物を頼む」
 そう言い置いて張り紙の前に向かうと、依頼の内容を確認していく。

 いくつかの張り紙の中で、特に目をひいたものは二つ。
 一つは砦への伝令、とりあえずは偵察が目的らしいが、場合によっては魔族との戦いも有り得そうだ。
 二つ目は邪竜退治、仮にも竜と名のつく者を相手にするだろう仕事、あきらかに荷が勝ちすぎた依頼だが…深刻な様子の文面が妙に気になる。
(話だけでも聞いてみるか)

 暫くすると女主人の元に戻ってくる。
「”キムナード砦への伝令”、それと”邪竜退治”についての詳しい話が聞きたいんだが…」


中年の女性(ワーカイン)

 店内に入ってきて、話しかけてきた竜人の姿を見て、物珍しそうな顔をする。

イザク<

「そうさ、ここのことだよ。それで、あたしがギルドマスターで、ワーカインってんだけど……」
 彼から話をされている間、無遠慮にイザクを上から下まで見ている。
「竜人ってのは、あたしも見たのは初めてだよ。十何年か前にも、竜人の誰かがこの町に来たことがあるらしいけどね。
 ふぅん、竜ってだけあって、本当に、良い体をしてるねぇ」
 ふんふん、と頷く。
「つまり、冒険者としてはまだまだ駆け出しだって訳だ。
 とりあえずのお金を稼ぎたいんなら、ここに来るのは間違いじゃないよ。
 特にこの町じゃあ、冒険者はいくらいても足りないくらいだからね……。張り紙は見たかい? 公然と募集している仕事は、とりあえず、あそこにあるんだ」
 と、横手の壁を指さす。
 そこには、何枚かの羊皮紙らしい紙が、鋲で止められているのが見える。


イザク

 扉を開けて店内に入ってくる竜人。
 暫くの間、冒険者で賑わう店内を眩しげに見回していたが、店主らしき女性をカウンターの中に見つけると、歩み寄って声をかける。

中年の女性<

「ひとつ尋ねたいのだが、竜追いギルドとは此処の事だろうか?」

 やや緊張した様子で切り出すと、創造竜を探す為に故郷を旅立って間もない身である事、路銀が少なくなった為、仕事を求めている事などを手短に話す。