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〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

神聖王国ミノッツ
騎士王国シルヴァードと領土を面した国家。
国土を治めるのは国王であり教皇であるパルマ四世。

:神聖王国 精霊の泉:
 ミノッツの首都コルベルージュの大正門から大聖堂に直線を引いた延長上2〜3kmほどの場所に小さな林がある。
 その中に、特別大きくもなく、深くもない泉が静かに水をたたえている。通称“精霊の泉”だ。

 このなんの変哲もない泉には伝説がある。

 病気の母の看病をしていた娘が、不意に聞こえた声に導かれるままにこの場所まで来ると、泉の淵にほのかに光り輝く女性が佇んでいた。
 娘に女性は自らを精霊アルファと名乗り、手にしていた小さな瓶に泉の水を汲んで少女に手渡した。
 精霊に言われたとおりに、娘が母親に一口だけその水を飲ませると、母親は嘘のように快復した。

 それ以後、ここは精霊の泉と呼ばれるようになり、満月の夜に、月がちょうど泉の真上に差し掛かるときにこの場所に来ると、かの精霊にであえるという。

投稿(件名…神聖王国 精霊の泉)
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リューイ・イシル・ウィンダリア


ノーイ<

戸惑ったようなノーイの顔。
なんだか珍しいものを見た気がして、目を丸くする。
「うん・・・それじゃあ、行こうか。」
綺麗な笑顔だ、と思った。
「自分」を思い出すことができたら。
彼女は、もっと喜んでくれるだろうか?
(思い出は・・・暖かいものばかりじゃ、ないけれど。)
それは知っていたけど。
記憶を取り戻すことが、彼女に――「ノーイ」にとって、
幸せであるといい。
そんなふうに、思った。

舞台はミノッツの竜追いギルドに移動します。



 
黒髪のノーイ


リューイ<

「分かりました…、
それでは、…使わせていただきますね」
名前を受け取りながらも、戸惑った顔をする。
“砕けた話し方”と言われても、どう振舞えば良いのか解らないのだ。
それでも、リューイの送った正礼におずおずと、
「ありがとう、よろしく、お願いします」
霞むような、しかし今度は明らかな笑顔を返す。
「ギルド…?
…ええ、行きましょう。………ありがとう」



 
リューイ・イシル・ウィンダリア


黒髪の女性<

「気にしないでください。正直、名前だけでもあの子が生き続けられるなら・・・って僕のエゴも入ってるんです。
そんな顔をされると、困ってしまう。」
薄く笑って首を振った。
「あなたの名前がわかるまで、つかってください。
えっと・・・もっとくだけた話し方でもいいですから。
僕もそうさせてもらおうかな」
そう言うと、小さく掛け声をかけて立ち上がる。
(普通の話し方・・・普通の話し方・・・)
深呼吸を2回ほどすると、ゆっくりとした動きで彼女の方を振り返った。
「あらためて自己紹介。
僕はリューイ。シルヴァード生まれの冒険者だ。―もっとも、まだまだ駆け出しだけどね。
これからよろしく・・・ノーイ。」
すっと膝を付き、騎士の正礼を彼女におくる。
その顔に浮かんでいたのは・・・鮮やかな笑顔。
「それで、ひとつ提案なんだけど。
1度この街のギルドへ行ってみない?
いろいろな情報が集まる場所だから、
君の身元についての手がかりがあるかもしれない。
それが無理でも、いろんな場所を見てみたら、
何か思いつくかもしれないし」
どうかな、と彼女に問いかけた。   



 
黒髪の女性


すみません。小さく呟いてハンカチを受け取り、目に押し当てるようにして涙の跡を拭った。

リューイ<

「ノーイ…、ノーイ…。
綺麗な響きのする、名前ですね」
霞むような笑顔を覗かせて唇を動かす。
「でも」笑顔を消して、哀しみの色を浮かべる。
「あなたの…、あなたの、大切な名前なのでは無いのですか…?」



 
リューイ・イシル・ウィンダリア


女性の頬を涙の粒が伝う。
それを見て、リューイは多いに焦っていた。
もちろん、
見た目には視線がさまよっているくらいしかでないのだけれど。
慌てて、懐へ手を突っ込み・・・少々皺のよったハンカチを引っ張り出す。
(洗濯・・・してあったよな?)
少し悩みながらも、そっとそれを差し出した。

黒髪の女性<

怪我はありません、小さいながらもはっきりとした答えに安堵の息を吐く。
「良かった・・・。」
見つめてくる瞳をまっすぐに見返す。
「苦しい時はお互い様、ですよ。
僕みたいな未熟者でお役にたてるのなら、喜んで。」
あるかなしかの微笑をうかべ、そう答える。
「・・・『ノーイ』という名は、どうでしょう?
僕の―妹の名前です。あなたに使っていただけたら、あの子も喜ぶと思います。」
少し悩むように瞳を伏せ、首を傾げる。



 
黒髪の女性


「わ…、たしは…。私は…」
意味も無く呟き、その「私」という言葉の放つ圧倒的な空虚さに、どうしようもないほどの不安と哀しみを受けて、眼から涙の粒を落とす。
零しながら、リューイの言葉に顔を上げる。
『大丈夫』
暖かくかけられる言葉。
優しげな、労わりで自分を包み込む視線。
心の中にうずくまっていたごとりと重いものが、彼の手によって退けられたかのようだった。
安らぎを与えられて、涙を拭う。

リューイ<

「だい…じょうぶです。
…多分、怪我は、ありません」
弱々しいながらも、はっきりと答えを返す。
そして俯き、彼の言葉にもう一度顔を上げる。
「助けて…くれるのですか?」
自分が自分だということすら分からぬ私を?
「私に…、名前を、下さるのですか?」
『私』を、見つけてくれるのですか?



 
リューイ・イシル・ウィンダリア


不安定な目の色。頼りなげな視線。
それらは見ている者を不安にさせる。
名前も何も、わからないと・・・そう呟く女性を見て、リューイは僅かに目を見開いた。
(記憶を無くしているのか?)

黒髪の女性<

わからないと言う女性を安心させるように、ゆっくりと話しかける。
「・・・おちついて。大丈夫です。
それで、体の方は平気ですか?痛いところとかはありませんか?」
記憶喪失の原因として、考えられるものはふたつ。
外的要因、もしくは内的要因。
前者であればどこか負傷しているのでは・・・と心配そうな眼差しで女性をみつめる。
「ここで会ったのも、精霊の導きかもしれない。
僕でよければ、力になります。
あの・・・ですから、そんなに不安そうな顔を、なさらないでください。」
とつとつと、言葉を区切りながら話しかける。
顔はほとんど変わらない。それでも、その目には労わり深い表情が浮かんでいた。
(今度こそ・・・助けるんだ。)
もう二度と、あんな無力感を味わいたくない。
強く、リューイはそう思った。 



 
黒髪の女性


リューイ<

「精霊…。家? ――私?」
呟いて、考えて、…頭を振る。
「分からない…」
ひどく不安定な色を目に浮かべて青年を見つめる。
「分からない…」



 
リューイ・イシル・ウィンダリア


黒髪の女性<

問われた内容に内心首を傾げ、頼りなげな黒い瞳を見つめ返す。
不思議に思いながら、それでも問われた内容には真面目に返答を返していた。
「僕は、リューイ・イシ・・・いえ、リューイです。リューイと呼んでください」
長いし、覚えにくいんですと、小さく呟いて。
「あなたは? 
ここにいらっしゃるってことは、あなたが精霊アルファなのかな。
ここは『精霊の泉』。神聖王国ミノッツの首都で、満月の夜には精霊に出会えるという伝説のある場所ですよ」
冗談めかしてそう言うと、リューイはわずかに表情をほころばせた。
子どもっぽい、多分に幼さを残した笑顔。
それが一瞬彼の顔を彩って・・・消えた。
「あの、大丈夫ですか?なんだか・・・すごく、調子が悪そうに見えます。僕でよろしければ、お宅なり宿なりまでお送りしますよ?」
気遣う光をその目に浮かべて、リューイは軽く首を傾げた。 



 
黒髪の女性


(わたしは…誰だろう)
(わたしは…何だろう?)
彼女は、先刻から思考の回廊をさ迷い歩いていた。
自分が何なのか、誰なのか。
何の意味を持ち、何を求めていたのか。
全く解らない。判らない。分からない。
考え、焦点を示さない瞳を泉へと向けている。
どうしようもない焦燥と、困惑と、未知が広がる。
この思考を誰かが覗けたとしたら、こう言ったのではないか。
「記憶喪失」と。
しかし、彼女はそのことすら分からない。気付かない。
延々と彷徨し続ける。
思考の陥穽に落ち込み、意識が自己へと集束していく。
…そして、突然生まれ出でた気配に、ふと、意識が外に向かう。
初めて、一つの意図をもって視線を廻らせる。
一人の青年を視線が合った。
少年は、戸惑いを瞳に浮かべて自分を見つめている。
僅かに紅潮し、しかしそれ以上の表情の映らない顔。
こんにちは、という挨拶に、彼女は頷いて見せた。
そして口を開く。

リューイ<

「こんにちは。……あなたは?」
あなたは誰ですか?
「ここは…?」
ここは何処か、知りませんか?

どこか夢を見るような、しかし夢から醒めたような黒い瞳で、青年を見つめながら言葉を紡ぐ。



 
リューイ・イシル・ウィンダリア


「泉の側に先客がいるのに気付き、リューイは足を止めた。
(女の人・・・?)
どうしよう、と思う。人と話すのはあまり得意ではない・・・ここ1年ほどは特に。
相手が女性となれば尚更だ。
出直そう、そう思って踵を返そうとした瞬間 ― 黒髪の女性と彼の視線はしっかりと、合ってしまった。

黒髪の女性<

「・・・こ、こんにちは。」と、礼を逸しない範囲の距離で軽く頭を下げる。
(う・・・気まずい・・・)
あまり表情のない顔の頬のあたりが、うっすらと赤く染まっていた。



 
GM


精霊の泉。小さな林の中にある、小さな泉。
リューイは一人、其処に歩を進めていた。
…ぼんやりと。
ぼんやりと、泉の脇に腰をおろした人影を、リューイは見出す。
黒髪を緩やかな風になびかせた女性の姿だ。
近付いて来た彼の気配にその女性は振り向き、視線を彼に合わせた。


 
リューイ・イシル・ウィンダリア


「・・・あった・・・。
ここが『精霊の泉』なんだ・・・。」
精霊が宿るといわれる、聖なる泉。
それを見つけて、リューイは琥珀の瞳を微かに眇めた。
母想いの少女を救った、精霊アルファの住まう場所。
神聖王国に行くことができたら、絶対に見にいくんだと・・・小さな妹が宣言していた場所。
ひとつため息をつくと、リューイは泉の方へと足を進めた。