ミノッツの首都コルベルージュの大正門から大聖堂に直線を引いた延長上2〜3kmほどの場所に小さな林がある。 その中に、特別大きくもなく、深くもない泉が静かに水をたたえている。通称“精霊の泉”だ。 このなんの変哲もない泉には伝説がある。 病気の母の看病をしていた娘が、不意に聞こえた声に導かれるままにこの場所まで来ると、泉の淵にほのかに光り輝く女性が佇んでいた。 娘に女性は自らを精霊アルファと名乗り、手にしていた小さな瓶に泉の水を汲んで少女に手渡した。 精霊に言われたとおりに、娘が母親に一口だけその水を飲ませると、母親は嘘のように快復した。 それ以後、ここは精霊の泉と呼ばれるようになり、満月の夜に、月がちょうど泉の真上に差し掛かるときにこの場所に来ると、かの精霊にであえるという。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 戸惑ったようなノーイの顔。 舞台はミノッツの竜追いギルドに移動します。
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黒髪のノーイ |
リューイ< 「分かりました…、 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
黒髪の女性< 「気にしないでください。正直、名前だけでもあの子が生き続けられるなら・・・って僕のエゴも入ってるんです。 |
黒髪の女性 |
すみません。小さく呟いてハンカチを受け取り、目に押し当てるようにして涙の跡を拭った。 リューイ< 「ノーイ…、ノーイ…。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
女性の頬を涙の粒が伝う。 それを見て、リューイは多いに焦っていた。 もちろん、 見た目には視線がさまよっているくらいしかでないのだけれど。 慌てて、懐へ手を突っ込み・・・少々皺のよったハンカチを引っ張り出す。 (洗濯・・・してあったよな?) 少し悩みながらも、そっとそれを差し出した。 黒髪の女性< 怪我はありません、小さいながらもはっきりとした答えに安堵の息を吐く。 |
黒髪の女性 |
「わ…、たしは…。私は…」 意味も無く呟き、その「私」という言葉の放つ圧倒的な空虚さに、どうしようもないほどの不安と哀しみを受けて、眼から涙の粒を落とす。 零しながら、リューイの言葉に顔を上げる。 『大丈夫』 暖かくかけられる言葉。 優しげな、労わりで自分を包み込む視線。 心の中にうずくまっていたごとりと重いものが、彼の手によって退けられたかのようだった。 安らぎを与えられて、涙を拭う。 リューイ< 「だい…じょうぶです。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
不安定な目の色。頼りなげな視線。 それらは見ている者を不安にさせる。 名前も何も、わからないと・・・そう呟く女性を見て、リューイは僅かに目を見開いた。 (記憶を無くしているのか?) 黒髪の女性< わからないと言う女性を安心させるように、ゆっくりと話しかける。 |
黒髪の女性 |
リューイ< 「精霊…。家? ――私?」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
黒髪の女性< 問われた内容に内心首を傾げ、頼りなげな黒い瞳を見つめ返す。 |
黒髪の女性 |
(わたしは…誰だろう) (わたしは…何だろう?) 彼女は、先刻から思考の回廊をさ迷い歩いていた。 自分が何なのか、誰なのか。 何の意味を持ち、何を求めていたのか。 全く解らない。判らない。分からない。 考え、焦点を示さない瞳を泉へと向けている。 どうしようもない焦燥と、困惑と、未知が広がる。 この思考を誰かが覗けたとしたら、こう言ったのではないか。 「記憶喪失」と。 しかし、彼女はそのことすら分からない。気付かない。 延々と彷徨し続ける。 思考の陥穽に落ち込み、意識が自己へと集束していく。 …そして、突然生まれ出でた気配に、ふと、意識が外に向かう。 初めて、一つの意図をもって視線を廻らせる。 一人の青年を視線が合った。 少年は、戸惑いを瞳に浮かべて自分を見つめている。 僅かに紅潮し、しかしそれ以上の表情の映らない顔。 こんにちは、という挨拶に、彼女は頷いて見せた。 そして口を開く。 リューイ< 「こんにちは。……あなたは?」 どこか夢を見るような、しかし夢から醒めたような黒い瞳で、青年を見つめながら言葉を紡ぐ。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
「泉の側に先客がいるのに気付き、リューイは足を止めた。 (女の人・・・?) どうしよう、と思う。人と話すのはあまり得意ではない・・・ここ1年ほどは特に。 相手が女性となれば尚更だ。 出直そう、そう思って踵を返そうとした瞬間 ― 黒髪の女性と彼の視線はしっかりと、合ってしまった。 黒髪の女性< 「・・・こ、こんにちは。」と、礼を逸しない範囲の距離で軽く頭を下げる。 |
GM |
精霊の泉。小さな林の中にある、小さな泉。 リューイは一人、其処に歩を進めていた。 …ぼんやりと。 ぼんやりと、泉の脇に腰をおろした人影を、リューイは見出す。 黒髪を緩やかな風になびかせた女性の姿だ。 近付いて来た彼の気配にその女性は振り向き、視線を彼に合わせた。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
「・・・あった・・・。 ここが『精霊の泉』なんだ・・・。」 精霊が宿るといわれる、聖なる泉。 それを見つけて、リューイは琥珀の瞳を微かに眇めた。 母想いの少女を救った、精霊アルファの住まう場所。 神聖王国に行くことができたら、絶対に見にいくんだと・・・小さな妹が宣言していた場所。 ひとつため息をつくと、リューイは泉の方へと足を進めた。 |