PBeM
〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

シナリオ
10

「黒衣の魔女」

 ミノッツ郊外の<ノームの森林>に住む魔女。
 人は彼女を黒衣の魔女と呼ぶ。
 最近になって、ノームの森林に魔物が巣食い、周囲の人々を脅かしているという。
 ミノッツではその元凶がこの魔女にあると断じ、冒険者に討伐を呼びかける。
 この依頼に興味を覚えた、リューイは、ノーイと共に、黒衣の魔女に会うためにミノッツの町を出立した。



GM

 リューイたちは、神聖王国ミノッツの竜追いギルドに移動しました。


ノーイ

 アルファンと無言で顔を見合わせると、くすりと笑んで、歩き出す。

リューイ<

「うん。帰りましょう」


アーキス

リューイ<

「全く、人の良いことですね、剣士殿」
 からかうと、オニキスの後について、歩き出した。


リューイ

アーキス<

「そうですか・・・良かったです。
 この辺りの人が怖い思いをすることは、これでなくなりましたね。」
 軽く息をつく。安堵の色が、その両目には浮かんでいた。
 無表情というより、どこか穏やかな印象を受ける顔をアーキスに向けて、小さく笑った。
「とんでもない。
 アーキスさんがいてくださったから、僕は屋敷の探索に専念できたんです。
 どんな仕事だって、一緒に組む仲間が信用できなければ成功しないものでしょう?
 本当にありがとうございました。」
 深々と頭を下げ、そう言った。

ALL<

「それじゃあ、戻りましょう。
 僕たちの冒険の始まりの場所に。」
 一人一人の顔を順に見つめる。
 普段あまり感情の伺えない声に、今は僅かに弾んでいるように聞こえた。


アーキス

リューイ<

「そのようですね。
 周囲に充ち満ちていた、異常な迄の魔力の渦。
 私の目には、もうあの渦は見えなくなってしまいました。
 知らず知らずのうちに沸き起こってくる激情も、去っていきました。
 近くの街で、魔力酔いに罹っていた人物がいたとしても、既に快癒していることでしょう」
 仰々しい身振りと言い回しで、リューイの台詞を肯定する。
 何やら、どこかしら、ほっとした風に見える。

「では、帰りましょうか? 剣士殿。
 神聖王国ミノッツへ。
 ……僕は、ほとんど何も、ご助力できませんでしたけどね」


リューイ

ノーイ<

 向けられた微笑みを、ほんの少しまぶしそうに見つめて。
「・・・わかった。一緒に行こう。」
 瞳を眇めるようにして、笑みを返す。
 どこかほっとしたような色が、その目にあった。

ALL<

「ええ、と。
 今回の依頼は、『ノーム森林の魔獣の沈静化』だったんだから・・・一応依頼達成でいいのかな?」
 僅かに首を傾げるようにして、そう言った。
 先ほどまでのノーイとの会話が今になって思い出されたのか、いくらかその頬は赤い。


アルファン

リューイ<

「あなたが行った選択は、私は私であれ、ということでした。
 もしも私を拒否する娘がいたら、それが私と一緒になってしまったら、深刻な矛盾でしょう? 私が私を否定してしまうんですから。
 そうすると、私は私ではなくなってしまいます。
 それはあなたが教えてくれたんですよ、リューイ。
 だから、これで、いいのではないでしょうか」


ノーイ

リューイ<

 透明な表情で聞いていて、しばらくそのままの姿でいる。
 それから、ふっと、泣き笑いの顔になった。
「あはは……っ」
 くすくすと笑い出す。
 笑って、それから微笑んだ。
「おかしいですね、わたし。
 会ってからひと月も経ってないのに。
 こんなにあなたに縛られてるんだから。
 卵から孵ったばかりの鳥の雛が、はじめて見た生き物を、親だと思ってしまうのと同じようなものなのかな」
 もう一度、ひとしきりくすくすと笑うと、アルファンの方を向く。

アルファン<

「アルファン。お母様。
 わたし、やっぱり、拒否します。
 心のどこかが、あなたのところに戻りたがってるけど……わたしは、あなたを拒否して、わたしになって、そうして、リューイについて行きたいと思います」

リューイ<

「許可は取りませんよ。リューイ。
 選んでいいって、そういってくれたのは、あなたなんだから」
 そういってまた、微笑む。


リューイ

ノーイ<

「うん、大丈夫。実際、今、君に言われるまで忘れていたくらいだもの。」
 肩をすくめるようにして、そんなことを言った。

 アルファンの言葉を聞き、戸惑ったように僅かに首をかしげた。
 アルファンと、ノーイの顔を見比べるようにした後、考えこむように目を伏せる。
「アルファンの娘・・・ノーイ、君の姉妹のような人たちが世界にちらばっているらしい。
 アルファンは彼女達に会いに行くと言った。
 僕は、僕自身の選択がどういう結果をもたらすのか確かめるために、その旅に同行することを決めたんだ。
 少しの沈黙の後、リューイは目を開けた。
 ノーイの瞳をまっすぐに見つめるようにして、ゆっくりと言葉を口にしていった。
「危険な旅なのかもしれない。だけど、ノーイ。
 君がアルファンと・・・その、ひとつになる理由が、僕の役に立つからだっていうのなら・・・それは少し間違っている。 
 君が黒衣の魔女でも、そうでなくても。僕は君が邪魔だなんて思うことはないから。
 この森に来るまで、ノーイといられて、すごく楽しかった。
『たくさんの色を持ったアルファン』を起こすことを選んだけれど、僕は・・・君がいなくなることを、望んだわけじゃないんだ。
だから、邪魔になるなんて――そんな風に言われるのは悲しいし、嫌だ。」
 あくまでも真摯なままの表情で、言葉を続ける。
「君が、一番幸せになれる方法を・・・選んでほしい。
 それが僕の願いだよ、ノーイ。」

アルファン<

「それでいいよね、アルファン?」
 
 瞳を転じて、アルファンを見る。


アルファン

 少しばかり考え込んでいた風だったが、リューイが言葉を掛けると、微笑みを返す。それから、アーキスの方を向いて、からかうような表情を見せた。

アーキス<

「そんなことをいって、こちらがびっくりするほどあっさりと事情を飲み込んだのはどなただったのでしょうね」

 唇に指をあてて少し黙ると、またリューイに向き直る。

リューイ<

「本当、どうしましょう」
 こくりと首をかしげる。一度は試みた、丁寧語ではない喋り方でのリューイとの会話は、今はやめてしまっているようだ。
「一応、ノーイとは話し合ってはみたのですけれど……どうにも齟齬があって。
 母と娘の間柄でも、理解しあえないことはあるみたいなのです。
 あの子は……」
 その「娘」と同じように透明な視線をノーイに向ける。
「今のままだとリューイの役には立てないから、私と一緒になるというのです。
 嫌だったら完全に私から離れても良いのだし、一緒になるとしても、何もすぐにそうすることもないんだといっても。
 あの子自身は、どうあってもリューイについて行きたい。
 けれど、そのリューイは黒衣の魔女の危険な旅に同行するつもり。そうすると、ただの自分がついて行っても邪魔になるから、って。
 動機がおかしいし、そもそも何か間違っているような気がして、それで、私があれこれと説明してみても分かってはくれなくて。
 だから、本人の……リューイの口から説明してあげてもらえたらな、と思っていました」


ノーイ

 何に対してか、「もう」と、呟く。

リューイ<

「……ラニがお手伝いできてたら良かったのだけど」
 抱き上げた使い魔の小さな額を、指先でいじくる。
「夢の中で、リューイがリューイとそっくりな人と戦っているのを見た時は、心臓が止まるかと思いました。
 あのときの怪我は……大丈夫なの?」

 問いかけながら、リューイに倣って、アルファンを見やる。


アーキス

リューイ<

「実は僕もそうなんですよ」
 おどけた身振りをして、何やら、リューイを和ませようとしているかのように見えた。
 それから、口を閉じて、アルファンに視線を移す。


リューイ

アーキス<

 宮廷式のお辞儀に僅かに目を見開き、その後、表情をほころばせた。
「アーキスさんもお元気そうで、何よりです。 ・・・三日も経っていたんですね。時間の感覚がなんだかおかしくなっていますけど、無事にお二人と会えてほっとしています。」
 透けて見える素顔が笑っている気がして、それにつられるようにして微笑む。
 アーキスの視線を辿り、こちらも彼にだけわかる程度に小さく頷く。
「・・・僕は驚きすぎて、頭の中を整理するのにしばらくかかりそうですよ。」
 そんなふうに言って苦笑した。

ノーイ<

「・・・そうか、良かった。別れる時すごく辛そうだったから・・・」 安心したように息をついて、瞳を伏せた。
 ノーイの言葉を聞いて、彼女がアルファンに向ける視線を追う。
 その透明な視線を、じっと見つめた。
「僕は大丈夫だよ。そんなに危ない目にあったわけじゃないし・・・ラニもいたし。
 前にもいったけれど、僕はこれでも頑丈にできているんだ。」 眉根を下げ、自分の方を見るノーイにどこか慌てたように答えた。
「・・・だけど、ありがとう。心配してくれて。 おかげで、ほら。ちゃんと帰ってこれたよ。」
 だからそんな顔しないで、と、僅かに頬を染めて笑ってみせた。

アルファン<

 ノーイとアルファンの顔を、気付かれないように順に見やった。
 何か言いかけるように口を開いて、閉じて。
 何度かそれを繰り返して、リューイは尋ねた。
「・・・アルファン。この後は、どう・・・?」
「ノーイはどうなるのか」とか、「二人はこの後どうするのか」とか。聞きたいことはあったのだが、結局最後の部分は声にならない。
 僅かに不安にかげった目を彼女に向けた。


アーキス

リューイ<

「お疲れ様です、剣士殿。
 お元気そうで何より」
 道化師の服装で人を食ったように丁重な宮廷式のお辞儀をしてみせる。
 笑顔と泣き顔に塗られた化粧の下で、素顔が笑っているように見える。
「やあ、この三日間、やたらと興味深いことばかり起きましたよ。僕の知的好奇心は満たされっぱなしです」
 リューイにだけこっそりとアルファンとノーイを示して、既にあれこれと聞いていることを示唆した。


ノーイ

 ラニを受け取って、すぐさま顔を舐めに掛かる犬を抱き直しながら、同じように困ったような表情をして、リューイを見返す。
 リューイの言葉でようやく、こちらも微笑んだ。

リューイ<

「お帰りなさい――なんだか、本当に、ずいぶんと長いこと離れていたような気がします。途中から……そうでもなかったけれど」
 ラニを見下ろしてから、ちらりとアルファンを見る。自分と同じ面影の魔女に向けた視線は透明だった。
「身体の調子は、大丈夫ですよ。初日は辛かったんですが、昨日は気分が悪いだけで済んで、今朝はとても心地がよかったから。
 あなたこそ、無事でよかったです。リューイ。
 心配していたんですよ、すごく、すごく」
 眉根を下げ、置いてけぼりにされたような顔でリューイを見る。


GM

 アルファンはくすりと笑うと、面白そうな表情を目に揺らめかせながら、一歩、下がる。ノーイたちに場所を譲る形だ。


アーキス

 アーキスもすぐにリューイの姿に気が付いて、ノーイに倣って手を振ってくる。ただし、軽く、二度だけ。そのあとは足を止めて、リューイがやってくるのを待っている。


リューイ

 男性が一人と、女性が――二人。
 軽く目を見張り、それが誰かに気付いて、リューイの顔に笑みが広がった。
 リューイにしては珍しい、弾けるような笑顔がそこにあった。
「・・・行こうか。」
 ラニとオニキスにそう声をかけると、彼らの方へ駆け寄る。
 栗色の髪が風に揺れる。

 オニキスから降りると、何かに迷うように瞳を揺らす。
 言いたいことがたくさんあるのに、何て声をかけていいのかわからない。
 そんな顔だ。

アルファン<

 肩に白猫を乗せたアルファンに笑いかける。
「いつの間に合流したんです? まるで、翼の生えた靴でも持っているみたいだ。」

アーキス&ノーイ<

「――ただいま。」
 結局、そんな風に言って、はにかんだように微笑した。
「二人とも、無事でよかった・・・。ノーイ、体の具合、は、もう・・・?」
 ラニをノーイの腕へと渡しながら、そう尋ねた。


GM

 振り返っても、追いかけてくる姿は見えない。
 探していても甲斐がなかったので、リューイはそのまま馬を進めた。
 丘に登る。

 と、頂に立つと、すぐ向こうに何人か、人が集まっているのが見えた。旅装で、ちょうどリューイのいる方向に歩いているようだった。
 男性が一人。道化師のような風体をしていて、一番後ろを進んでいる。
 女性が一人。すぐにこちらの姿に気づき、黒髪を風に揺らしながら、こちらに手を振ってくる。ラニがじたばたと暴れ出した。

 ノーイだ。

 そのすぐ傍らに、微笑みを浮かべている女性がいる。ノーイと対照的な白い髪をした――アルファンだ。肩の上にまん丸と太った白猫が乗っている。


リューイ

 辺りの空気が変わったことがはっきりと感じられた。
 守られているような穏やかな気配に、リューイの表情も僅かに緩む。
「ミノッツにもこんな場所があったんだ・・・。懐かしいね。」
 機嫌のよさそうな愛馬の長首を軽く叩き、そんな言葉をかける。

 明るい陽射しに軽く目を眇めながら、丘の手前でオニキスを止めた。
 そわそわとするラニの様子に「もうすぐだよ」と声をかけると、一度後ろを振り返った。
「あとで追いつく」と言った彼女の姿が見えるだろうかと思いながら。


GM

 じっとしていた鬱憤を晴らすように、オニキスは陽気に進み出した。
 だく足の駆足で、気持ちよさそうに足を運ぶ。
 あの館に来るときに周囲を包み込んでいた怪しい気配がすっかりと拭い去られ、代わりに、騎士王国にある守護の森のような穏やかさを漂わせていた。
 リューイにははっきりと、この森が「守られた場所」なのだということが感じられた。

 道に迷うこともなく、何の危険にも出会うこともなく、リューイは森を抜けた。
 明るい陽射しが目を焼く。
 気がつけば、日が昇っていて、それも、もう早朝を少し過ぎた頃のようだった。
 屋敷に来たのは、確かに、日が落ちてすぐのあたりだった。
 おとぎ話には、外と時間の流れの異なる屋敷というものも出てくるが、もしかしたらアルファンの館にもそのような魔法が掛かっていたのかも知れない。

 森を抜けて、草原を通っていく。
 後一つ、目の前の丘を越えれば、ノーイたちが待っているはずの町がある。
 ラニが、そわそわとして尻尾を振り出した。


ラニ

 オニキスを見て、自分の足元(というか、足)を見て、それから振り返り、背中に生えている羽を見る。
 どうしようかな、という風に首を傾げるが、結局はおとなしくリューイに身を任せる。


リューイ

 久しぶりに感じる外の空気に大きく息を吸った。
 ずいぶん長く屋敷の中にいた気がする。
 自分の選択が、どんな結果を導くのかはまだわからないが・・・この森の異変を止めることができたのなら、今はそれでいい。
 自分の方を見つめているオニキスに気付き、顔をほころばせた。
「ごめん、待たせたね。怖い思いはしなかった?」
 暖かな長首を軽く叩くと、改めて屋敷を見上げる。
「・・・この建物ごと片付けるというんだから、魔術師ってすごいよね・・・」
 力のほとんどがなくなっている、というようなことを彼女は言っていたけれど、館ごとつぶしてしまえるのは充分すごいのではないだろうか。
 感嘆するように呟くと、気持ちを切り替えるように小さく息を吐く。
 身軽な動きで騎乗すると、体をかがめてラニに手を伸ばした。
「おいで、乗せてあげる。オニキスと足の速さを競うつもりはないだろう?」
 ノーイのところへ戻るよと続けると、小さく笑う。
 彼女に会うということに、嬉しさと、いくらかの不安を感じていた。



GM

 リューイは研究室を後にし、いつの間にか元通りに復元されていた甲冑の守護者の横を通り抜けて、屋敷の外に出た。
 オニキスがこちらを見ている。
 近寄りたそうにしていたが、「待て」の命令が解除されるまで動けないものだから、そわそわと鼻を鳴らすに留まっている。


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